台本と演出をリニューアルし、時代に合わせてアップデートし続ける劇団四季 ディズニーミュージカル『美女と野獣』。今回の公演の見どころや裏話などの出演者インタビューをご紹介します。
- <2022年10月23日に開幕した 劇団四季のディズニーミュージカル『美女と野獣』©︎Disney 撮影:荒井 健>
2022年10月23日に東京ディズニーリゾート内にある舞浜アンフィシアターにて開幕した、
劇団四季のディズニーミュージカル『美女と野獣』。
27年前に劇団四季がディズニーと初めてタッグを組んだミュージカルでもある本作品は、2018年~20年の
上海ディズニーリゾート内での公演を踏襲し、今回“新演出版”として台本と演出がリニューアルされたバージョンで上演されています。
初めての方はもちろん、これまでの日本公演など過去に何度も観劇したことのある方でも新しい発見があるような
見どころたくさんの本作を、ベル役、ビースト役Wキャスト4名の出演者と、
演出及び振付家の公演開幕前のインタビューを織り交ぜながらご紹介していきます。
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- <稽古場取材会の様子。左から劇団四季代表取締役社長の吉田智誉樹氏、平田愛咲さん、五所真理子さん、マット・ウェスト氏、清水大星さん、金本泰潤さん。撮影:荒井 健>
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今回披露される“新演出版”は、28年前のブロードウェイ初演を手掛けたクリエイティブスタッフが中心となってリニューアルが施されました。
初演では振付を手掛け、今回の公演では演出と振付を担当するマット・ウェスト氏を筆頭に、作曲アラン・メンケン氏、作詞ティム・ライス氏などのメンバーが再集結。
“外見にとらわれず、人の心の中を見通す”という作品テーマを元に、根幹となるメッセージはそのままに、時代に合わせた再構築が行われた本公演についてマット・ウェスト氏はこう話します。
「『美女と野獣』は、作品のメッセージが非常に普遍的であるため、時代の変化と共に柔軟にアップデートされるべき作品であると考えています。
ベルは本を読むことが大好きなキャラクターです。
海外では「本を表紙でジャッジしてはいけない」という、見た目で人をジャッジするのではなく中身を見抜くのが大事だという教訓がありますが、それこそが『美女と野獣』が描いている本質のテーマです。」
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- <今回の公演で演出・振付を担当するマット・ウェスト氏>
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「この物語がなぜ、年齢・性別を問わず多くの方に響くのかというと、本当の自分を見てもらえない、自分がその世界の中で違う誰かのふりをしないといけないという体験を誰しもが一度はしたことがあるからです。
だからこそ物語に共感し、自身が作品と繋がることができて、作品をより愛することができるようにもなります。
この作品は表面だけでなく本質を見ようというメッセージをベルが私たちに捧げてくれる贈り物でもあり、そのメッセージを世の中に伝え続けるためのレンズともなるべき作品です。だからこそ時代の変化に合わせたアップデートが必要となるのです。」
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- <稽古中の様子を語るベル役・平田愛咲さん>
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セリフや振付等に関するアップデートは、出演者をも巻き込んで行われており、ベル役の平田愛咲さんは「今回は脚本が変更したり、新しい楽曲が追加されたりしているので全てが挑戦です。実際に演じてみて文語では成立していてもセリフで話してみた時に違和感のあったものなどはマットさんに相談して、一緒に考えていきました。
私たち俳優の意見を取り入れて下さって一緒に作っていけるというのは、アニメーション作品のファンとしてもたまらない夢のような経験をしています。稽古の中でどんどん変わっている部分もあるので、公演を重ねるごとに進化していきたいです。」と、前向きに語ってくださいました。
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- <ディズニーミュージカル『美女と野獣』 ©Disney 撮影:下坂敦俊>
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私たちが慣れ親しんできた登場人物のキャラクター性を損なわないようにしながらも、現代に合わせた表現に更新されている本公演。演出以外でも、舞台セットや衣装などの舞台美術も一新されているのだとか。
さらに、主人公ベルにも新しく追加された設定があるので、是非目を凝らしながらチェックしてみてくださいね。
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- <「チェンジ・イン・ミー」について想いを語るベル役・五所真理子さん>
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この楽曲は1998年にブロードウェイのプロダクションで追加されたもので、城を出て父モリースのもとへ戻ったベルがビーストとの交流を経て感じた自らの心の変化を歌うナンバーで、ベルの心情を深く掘り下げた楽曲となっています。
ベル役の五所真理子さんは、この楽曲についてこのように話します。
「私自身、母から本当に愛する人ができたら、自分の大事にしてきたものよりも大切に感じるようになるよ、と言われたことがあります。ベルのように、自分のホームが父親から彼(ビースト)に移り、自分の大事にするものが変わり、これまで大事にしていたものよりもその気持ちが大きくなる。この楽曲はその時の心情が歌われているので、その繊細な気持ちの表現を大切にしていきたいです。」
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- <開幕を目前に控え、緊張感がありながらも和やかな雰囲気で行われた取材会 撮影:荒井 健>
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「チェンジ・イン・ミー」には、実は意外な誕生エピソードがありました。
マット・ウェスト氏と作詞を担ったティム・ライス氏、当時のミュージカルでベル役を演じることが決まっていたトニ・ブラクストン氏の3名でのとある夕食の場で、ライス氏がブラクストン氏に「君のために書いた新曲を聴かせるのが楽しみだ」とその場の勢いで話したことがきっかけで楽曲を制作することになったのだとか。
当時のマット・ウェスト氏は、突然のライス氏のこの発言に対して「ん??何が起きている?僕は何も知らないぞ・・・!」と思っていたそうですが、改めて考えるとベルが自分自身の想いが変わり、その変化に気づいて決意するためのシーンにはこの楽曲が必要だったと振り返ります。
出演者もこのエピソードは初耳だったようで、その意外な誕生ストーリーに、その場にいた全員が驚きと共に笑いが同時にこみ上げた瞬間でした。
楽曲の誕生のきっかけこそ意外なものですが、作曲はディズニーの名曲を生み出し続けているアラン・メンケン氏が担当し、歌詞もベルの心情が丁寧に綴られた聴きごたえのあるバラード。制作秘話を知った上で聴くと、楽曲に対する印象もまた変わるかもしれません。
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- <笑顔でインタビューに応じるビースト役の清水大星さん(左)と金本泰潤さん(右)>
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- <ビースト役の難しさや、やりがいを語る清水大星さん>
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清水大星さん「綺麗な姿勢を保つことよりも、どうしたらより獣のように見えるかというところを細かく研究しました。また、ビーストの衣装を初めて着た時、想像以上に重くて頭がいっぱいになり…重い衣装に慣れることもひとつの挑戦と言えます。
それと同時に、内面的には、野獣でもなく王子でもなく、ひとりの人間として成長していく姿をどう表現するかということも私の中の挑戦です。」
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- <ビーストの見どころシーンについて語る金本泰潤さん>
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金本泰潤さん「獣と人間(王子)のバランスをとるのを特に意識しました。獣の役は過去に何度か演じたことはありますが、王子の役は初めてで、野獣としてあまり荒々しくても元の姿の王子様としてのロイヤル感が無くなってしまうので、獣になりすぎたかな、人間になりすぎるな…など研究している最中です。」
おふたりとも、ビースト役ならではの表現を模索しながら稽古に励んでいたことが伺えます。
また、劇団四季で本作を上演するからこその意気込みも話してくださいました。
金本さん「今回、マットさんが素敵な演出を沢山考えてくださり、その一つ一つに意味があるので、意図を汲み取って体に落とし込んで観客の皆さまへ届けていきたいと思います。
『このセリフ紡ぎがとても美しい!!』とマットさんが稽古中に何度か仰っていたのですが、劇団四季は言葉を大事にする劇団だからこそ、日本語でその美しさをどう伝えるのかを日々向き合って表現していきたいです。」
そしておふたりとも、ビーストの唯一のソロナンバー『愛せぬならば』には思い入れがある様子。
清水さん「これはビーストが自分の運命と向き合い、その次どうするかという大事なナンバーです。今回テンポが調整され、曲のイメージも変わったのではないかと思います。1幕と2幕のブリッジでもありますし、大事にしています。」
金本さん「初めて聴いた時はベルに捧げる想いを歌ったナンバーだと感じていましたが、ビーストはみんなの希望と責任を背負い、それに耐えかねて自分をどうにかしてしまうのではないか…という歌だと聞き、今でも鳥肌が立ちます。
元々傲慢で独りよがりだった王子が、最終的にはベルを手放して野獣としての自分の運命を受け入れる。本当にドラマティックだと思います。
また、ベルを家に帰したことをお城の家来たちに告げるシーンも美しく絶望的です。
もしかすると死ぬことよりも辛いような、永遠に野獣になってしまうという絶望感は、何度演じていても心を動かされるシーンです。」
ぜひ、心揺さぶる渾身のナンバーを堪能してください。
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ビースト役の清水さんは、初披露の楽曲「チェンジ・イン・ミー」が加わることで、ベルの成長物語であることを体感したそう。
清水さん「この物語は、ビーストではなくベルの成長物語だ・・・と演じていく中で印象が変わりました。ベルがビーストと出会い、いろいろな出来事があった中で心を通わせて成長し「チェンジ・イン・ミー」のシーンに入る。この流れがそう感じる展開です。」 -
- <ディズニーミュージカル『美女と野獣』 ©Disney 撮影:荒井 健>
ベル役の平田さんもこう語ります。
「今回、お父さんとベルのシーンの楽曲が芝居に変更になったことで、リアルで共感しやすく、人間味が増すシーンになったと思います。また、「チェンジ・イン・ミー」が追加されたことで、ベルが少女から大人の女性に成長している姿がとても分かりすく、共感もしやすくなっているのではないかなと思います。」
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- <今回の公演の見どころについて語る、ベル役の平田愛咲さん(左)と五所真理子さん(右)>
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平田さん「見どころは全部です…!芝居・歌のシーン・ダンスなど全部見てほしいですが「チェンジ・イン・ミー」は初披露のタイミングでもあるので是非注目してほしいです。」
五所さん「特に好きなシーンは図書館のシーン。この場面でビーストとベルは孤独という共通点で繋がります。そこから育まれていく温かくて素敵な時間を、是非注目してみていただきたいです。」
また、五所さんは演出のマット・ウェスト氏から“ベルを通してお客様が旅をする”と言われたそうで、「自分は透明な存在になり、お客様がキャラクターをより色鮮やかにチャーミングに感じていただけるように表現できたらいいなと思います。そのためにもベルと自分の心を近づけて行くこと、自分の中にあるものを信じながらベルという女性を魅力的に演じていきたいです。」と意気込みを語ってくださいました。
いかがでしたか?
永遠に色あせることのない、ディズニーが誇る珠玉のラブストーリーを、
根幹のテーマをぶらさずに今の時代にフィットする内容にアップデートした“新演出版”の『美女と野獣』。
インタビューでは、舞台に携わる全員で公演を日々進化させてより良いものにしていく気概も感じられました。
初めて観劇される方も、公演を何度も観たことがある方も、アニメーション作品のファンの方も、
全員が楽しめるような新しい『美女と野獣』を、ぜひ実際にご自身で体感してみてくださいね。